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船員・海事に関する調査研究

 

海事問題調査委員会報告(H28.3)(PDF)

post by 海洋会事務局
 海事問題調査委員会では、公益目的事業活動として海事社会におけるホットな重要テーマについて取り上げています。今回は、災害時医療支援船構想についてご紹介します。
 
 阪神淡路大震災から20年が経過するなか、災害時において民間船を活用した公助の構想は関係者の間で熱心に検討されてきました。そして今、構想のステージから実現のステージへ発展しようとしています。
 この災害時医療支援船構想について丁寧に説明していただきました。
海事問題調査委員会 委員長 門野 英二
海事問題調査委員会報告(H27.3)(PDF)
post by 海洋会事務局

海事問題調査委員会中間報告その3(平成23年5月)
 安全と環境―――生物多様性―――

委員長 赤峯 浩一

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本論に入る前に、先ず今回の東日本大震災により被災された方々に心よりお見舞い申しあげます。また一刻も早く、通常の生活に戻られることをお祈り申しあげます。微力ではありますが、海事問題調査委員会も出来る限りのご協力を致す所存です。
さて、当委員会は、昨年会誌・海洋の8月号(平成22年版)にて「今世紀は、低炭素化社会の成立」と謳われ縷々ある中、温室効果ガスについて、報告いたしました。
今回は、環境問題のなかでは、実は温室効果ガスよりも問題的には大きいとも言われていますが、会員の方々にもあまりなじみのない「生物多様性」について報告いたします。
今回の大震災では津波による破壊、また放射能問題とまさしく安全と環境問題は一体となっていることが改めて確認されることとなりましたが、地震を発端とする様々な事象による「生物多様性」への影響も大変心配されるところです。
 
1.序論・生物多様性とは
2010年夏、日本では「113年間の観測史上最も暑い夏」となった。異様な夏を経験したのは日本だけではない。ロシアでは高温のため各地で森林火災が相次ぎ、また、パキスタンや中国は洪水に見舞われ、多くの被災者が出ることとなった。多種多様な環境問題がある中、「環境問題」といえば、地球温暖化問題を思い浮かべがちであるが、温暖化問題は、地球規模であり、そのメカニズムも比較的理解しやすいため、今では一般に広く理解されている。一方、今回のテーマである「生物多様性」は、本質を掴みづらく、また説明もしにくい。それは、生物多様性問題の特徴である複雑で地域的な面が一因であるとも考えられる。
 
 
昨年2010年は、国連が定めた「国際生物多様性年」であったため、それに合わせて国内外で様々なイベントが開催された。そして、日本では生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)が愛知県名古屋市で開催されたこともあり、生物多様性は一躍注目を浴びた。特に国内のメディアでは、連日、生物多様性についての特集が多く組まれていた。環境問題では、CO2の次は生物多様性だ、などという声も聞かれた。しかしながら、ここまで話題になっていても、今一つその重要性が理解できないというのが本音である。また、生物多様性の保全の必要性は理解できたとしても、そのために何をすべきかについては難しい問題である。本来は、身近であるはずの生物多様性問題の解決策を考えるためには、まずは生物多様性の基本と特性を理解するところから始めたい。
 
 
2.概要
 
一般的に、生物多様性とは地球上の生物の多様さと自然の営みの豊かさをさし、下図のように大きく3つ(生態系・種・遺伝子)に分類される。地球上には、様々な生態系があり、その中にいろいろな生物が存在している。また同じ種間でも、遺伝子の違いにより、形や色などが異なる。3つのうち1つに異常が表われれば、やがてその他にも影響し、地球全体の生態系が崩れていく。近年、人間の経済活動により、長年それら3つがうまく作用し保たれてきたバランスが失われつつあると言われている。森林伐採や海洋汚染などによる生態系の破壊や、動植物の密猟・乱獲などによる絶滅危惧種の増加などがそれに当たる。
 
それでは、この生物多様性を保全するための条約はいつ成立したのか。実は、生物多様性条約も気候変動枠組み条約と同じく、1992年6月にリオデジャネイロで開かれた地球サミット(国連環境開発会議)で採択されている。そのため両条約は双子の条約とも呼ばれている。その後、生物多様性条約は1993年12月に発効し、2011年2月現在、193の国・地域が参加している。また、アメリカ合衆国は条約に署名しているが、批准していない。この条約の大きな3つの目的は以下の通りである。
1) 生物の多様性の保全
2) 生物多様性の構成要素の持続可能な利用
3) 遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分(ABS)
同じく生物に関する条約であるワシントン条約※やラムサール条約が既に存在していた中で、なぜ本条約が改めて策定されたのか。その意義としては、特定の行為や生息地のみを対象とするのではなく、生物多様性の包括的な保全を目指すためである。また、保全するだけでなく、持続可能な“利用”を目指している。
 
※遺伝資源の利用から生ずる利益の公正で衡平な配分(ABS):
Access and Benefit-Sharing
先進国が開発途上国の生物遺伝資源を生命科学・医学分野などに利用した場合、その代価を義務的に支払わなければならない。例えば熱帯植物のパパイヤで抗がん剤を、ヘビ・サソリの毒から鎮痛剤を抽出して開発すれば、それに伴う利益を遺伝資源提供国にも一定部分配分しなければならない。
 
※ワシントン条約:
Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約
 
※ラムサール条約:
Convention on Wetlands of International Importance Especially as Waterfowl Habitat
特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約
 
 
3.生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)
 
日本がホスト国を務めたCOP10が、2010年10月18日から29日まで愛知県名古屋市で開催され、179の締約国、関連国際機関、NGO等から13,000人以上が参加した。主な議論は、①ABS議定書(名古屋議定書)、②ポスト2010戦略計画(愛知目標)、そしてそれを達成するための③資金動員計画である。その中で途上国側からは、上記のうち最も困難を極めていたABSを巡る問題(生物遺伝資源の利益共有に関する議論)を解決しない限り、その他項目については議論を進めないという“セット採択”(パッケージ・ディール)が要求された。膠着状態が続いていたところ、29日に残り半日の時点で、松本環境相が各国に議長案を示した。これにより、締約国すべてが上記3つに合意するかたちで、COP10は幕を閉じた。つまり同時に、条約が採択されて以来これまで18年間行われてきたABSを巡る議論も終わった。
そもそもなぜ、途上国側は遺伝子資源問題にこだわるのだろうか。彼らとしては、自国内の有形物(自然資源)が枯渇してしまった場合、消耗することがない無形物(遺伝子資源)がお金になれば、今後持続的な資金源になるとの考えがあるようだ。先進国側としては、無償で今まで利用できたものが原材料コストに変わり、コスト増に繋がり得る。50カ国以上の批准が必要な名古屋議定書が発効するのは1~2年後と予想される。条約発行後は、原産国と利用企業がそれぞれの案件ごと、個別交渉することになる。
 
2.で紹介したとおり、生物多様性条約の目的の一つに生物多様性の保全がある。そのイメージが先行するため生物多様性条約といえば、漠然と「いきもの」や「里山」などを思い浮かべるかもしれないが、本来もっとお金と結びついたものであるといえる。つまり本来、生物多様性条約は“途上国支援条約”であり、資金・人材・技術を先進国から途上国へ移転するための条約なのである。
 
 
4.生物多様性とビジネス
 
生態系と生物多様性の経済学(TEEB)※の試算によると、生物多様性を失うことによる経済的損失は毎年2~5兆ドルにものぼる。これは世界経済の3~7%という非常に大きな値であり、気候変動と同じくらいのインパクトと言われている。地球温暖化対策でいえば、企業は軒並みCO2排出量削減目標を掲げ、数年前では考えられなかった程様々な対策を実施している。一方、生物多様性への企業の認識は限られており、取組みを始めたばかりというのが現状である。また、自社の製品やサービスは生き物とは直接関係がないため、生物多様性との接点はないと捉えてしまう企業が多い。しかし、製品やサービスのライフサイクル全体で見ると、あらゆる企業活動は、原材料調達、生産、流通などの各段階で資源の利用、土地利用や水域・大気への影響など様々な接点がある。ここでは、海運業を例にその関連性を説明したい。
 

生物多様性の損失に直接つながる5つの要因

 
一般的に、企業活動は右図のように5つの要因のいずれかと関連があると言われる。海運業では、②外来種の移入、③汚染、④気候変動との関係性が深いと言われており、外来種の移入、特にバラスト水※による海洋生物の越境移動が世界的な問題になっている。この水に含まれる海洋生物や細菌が、本来の生息域以外で異常繁殖し、海洋生態系や漁業などに悪影響を与える可能性があるのだ。これを受け、IMO(国際海事機関)が一定の水質基準を満たさなければ排水できないという国際規制※を2004年に採択した。現時点(2011年2月)では未発効だが、今後1~2年以内に発効するのではないかとされている。バラスト水対策の一例として、NYKでは条約発効に先立ち、自動車専用船「エメラルドリーダー」に国土交通省の型式承認を受けたバラスト水処理システム※を2010年9月に搭載した。現在保有・管理する船舶への搭載検討を順次進めている。

 

 
また北米では、東アジアやロシアなどに存在するマイマイガ(AGM: Asian Gypsy Moth)が、船舶やその貨物を経由して北米大陸へ侵入することを危惧して防止策を講じている。アメリカ・カナダ・メキシコの植物検疫機関で組織されたNAPPO(North American Plant Protection Organization)は、危険度が高い東アジアの港を出港した船舶に対してAGM不在証明取得の義務化などの対策をとっており、今後更に規制の強化も予定されている。各船社では、検査機関発行の不在証明書の備え付けなどの規制遵守に加え、自主的に入港前のクルーによる船内チェック及び駆除を行っている。
 
上図は、企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)が開発した「企業と生物多様性の関係性マップ」を参考に、海運業のライフサイクルと生物多様性への影響、及び関係した当社の取組みを纏めたものである。船を調達する・運航する・処分する、などの全過程において大気汚染、海洋汚染、外来種の移入など生物多様性を脅かす可能性がある、ということが把握できる。また、悪影響を低減するための対策として、船を造る(調達する)段階では船体抵抗を少なく、また太陽光発電を利用するなど、環境に配慮した船の設計を模索している。運航する際は、安全運航の徹底、バラスト水の適正管理や陸上電力を使用するなどしている。そして解撤する際には、環境に配慮した中国の指定ヤードで行う。このように、事業と生物多様性の関係性を可視化することが、生物多様性の保全対策を進める上での第一歩となる。
 
※バラスト水:
船の空荷時に船体動揺を安定させるために船腹に積む水のことで、一般に揚荷港で注水し、積荷港で排水する。
 
※生態系と生物多様性の経済学(TEEB):
The economics of ecosystems and biodiversity
生態系と生物多様性が経済に与える影響などを研究した報告書
 
※バラスト水の国際規制:
2004 年2月ロンドンで開催された国際海事機関(IMO)会議で採択された船舶のバラスト水および沈殿物の規制および管理のための国際条約。2009 年以降に新しく建造される船舶にはバラスト水を適切に処理する設備を備えていることを義務付けている。30カ国が批准し、かつ、それらの合計商船船腹量が世界の35%以上となった日の12カ月後に発効されることになっている
 
※バラスト水処理システム:
バラスト水とともに運ばれた海洋生物を処理し生態系を乱すことのないようにするシステム。バラスト水管理条約が発効されれば、本条約に定める処理基準を満たすため、全ての外航商船にバラスト水処理システムの設置が義務付けられる。また、新造船・既存船の順に2017年1月にかけて順次規制対象が拡大される。
 
 
5.身近な生物多様性
 
我々は私生活の中でも、気が付かないうちに生物多様性の恩恵を受けている。バイオミミクリーという言葉を聞いたことはないだろうか。これは生物模倣と訳されるが、人間社会の問題を解決するため、自然の仕組みやプロセスを研究し、模倣したりインスピレーションを得たりする新しい科学のことである。バイオミミクリーという言葉が普及したのは、最近であるが、身近な自然から学ぶ技術開発の歴史は長い。たとえば、レオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の翼を観察して飛行力学の知識を得たのは、500年も前のことである。そして
この考えを利用した製品は私たちの周りに知らない間に多く存在している。例えば、新幹線の先頭車両は空気抵抗や騒音を減らすため、カワセミのくちばしをヒントに開発された。また、面ファスナー(マジックテープ)は一般にひっつき虫と言われる植物類(オオオナモミ等)種子の表面にあるフックのようなとげの先端をヒントに発明された。
 
また、海運業に不可欠な船舶技術の世界では、さめ肌機能の応用が考えられている。その機能が競泳用水着に採用されたことは記憶に新しく、小さな突起状のうろこの先端にある溝に生じた小さな渦が水流の流れを吸収して摩擦抵抗を減らしている。日本郵船の未来のコンセプトシップ「NYK Super Eco Ship 2030」でも船底にさめ肌塗装を施すことで、摩擦抵抗削減を目指している。
 
このように世の中にあふれているバイオミミクリーの情報を纏めているAsk Natureというインターネットサイトがある。これは生物の情報を体系的にまとめたデータベース形式になっており、アメリカ人サイエンスライターのジャニン・ベニュス(Janine Benyus)氏設立のバイオミミクリー研究所(The Biomimicry Institute)により運営されている。Ask Natureでは、世界中の人々が自然を模倣して何かを作り出そうとするときに、必要な情報にアクセスできるようにすることを目指している。
 
生物多様性は幅を持つ概念であるため捉えづらいが、その分応用が利くという利点がある。前述の通り、事業活動とも切っては切れない関係である。まだルールや議論も発展途上にある生物多様性、うまく取り入れていけばバイオミミクリーのようにチャンスにもなりうる。

 
海事問題調査委員会
 委員長 赤峯浩一
  塚本達郎  竹井義春   花原敏朗  武田和彦  藤澤昌弘
  鈴木勝朗  鐘ヶ江淳一  山内章裕 丸本秀一          
  
post by 海洋会事務局
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  海洋会の常設委員会である海事問題調査委員会は、「安全と環境」をテーマとして取り上げております。
「環境」に関連する船舶から排出される物質としては、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、更に、水生生物の越境が問題となっているバラスト水などがあります。最近、これらの排出物については世界的に注目されており、規制の導入などにより船舶からの排出削減が強化されつつあります。
 今回は、この4項目について紹介すると共に、温室効果ガス排出削減の新技術である「電池推進船」に関して報告します。 海洋会の常設委員会である海事問題調査委員会は、「安全と環境」をテーマとしてとりあげております。
 今回は、そのⅡとして「環境」に関連する船舶から排出される物質(温室効果ガス(CO2)、バラスト水、 NOx・SOx)に加えて、温室効果ガス排出削減の新技術である「電池推進船」について報告します。
 その第一回目として「1.温室効果ガス(CO2)」について報告します。

I
.温室効果ガス(CO2
1.地球温暖化の原因
現在、地球温暖化問題が世界的に注目されています。この地球温暖化は人間の活動により排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量の増加が原因の一つであると考えられています。
地球の気温は、太陽光によって暖められた地表面から熱(赤外線)が放射され、大気中にある温室効果ガスがその熱を吸収し再放射することによって生物が生息するのに適した温度を保っています。しかしながら、産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料の大量消費によってCO2排出量が増加し、また、森林の伐採などによりCO2の吸収源が減少した結果、大気中の温室効果ガス濃度が上昇しました。大気中の温室効果ガスの濃度が上昇すると地表面から放射される熱の吸収量が多くなり気温が上昇します。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、1906年から2005年までの100年間で世界の平均気温は0.74℃上昇しました。また、1956年から2005年までの50年間の温度上昇傾向は10年間に0.13℃であり、過去100年間(1906年~2005年)の傾向の約2倍に相当します。今後、21世紀末までに、世界の平均気温は1.8℃から4.0℃上昇し、世界の平均海面水位は0.18mから0.59m上昇すると予測されています。
(出典:IPCC「Climate Change 2007:Synthesis Report」)
 
2.地球温暖化の影響
地球温暖化によって生じる影響は多岐に渡ります。生態系への影響としては、動植物の生息地の移動や減少などが挙げられます。また、今後地球温暖化が進むにつれ異常気象の頻度や強度が増し、世界各地で水不足や農作物の収穫量の減少、海面上昇による海岸侵食などの被害、更には、健康への影響が懸念されています。
また、現在世界各地で地球温暖化の影響によって発生した可能性のある熱波、ハリケーン、干ばつ、海氷の減少などの災害が報告されています。
1)熱波
2003年夏、ヨーロッパでは熱波によって過去500年で最も暑い夏となり、多くのヨーロッパ諸国で、最高気温が更新されました。その強烈な熱波で、穀物は枯れ、川は干上がり、森林では火災が発生し、約5200人が死亡するなどの大きな災害となったことが報告されました。また、2007年の夏においてもヨーロッパにおいて同じような熱波が発生しました。
2)ハリケーン
2005年8月に米国南部を襲ったハリケーン・カトリーナは、暴風や高波・高潮などの災害をもたらし、被害地域の経済活動が一時的に停止するなど、米国に大きな被害をもたらしました。
3)干ばつ
オーストラリアにおいては、近年連続して発生した干ばつにより、農業生産は大きく減少しました。特に、2006年の干ばつは観測史上最悪とされ、生産量は前年比で約60%減少しました。
4)海氷の減少
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、北極の平均気温は過去100年間で世界平均の気温上昇率の約2倍の速さで上昇し、海氷や積雪面積が減少したと報告しています。更に、北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅すると予測されています。北極海の海氷が減少することにより、今後北極海航路が開通する可能性があります。北極海航路が開通した場合、日本からヨーロッパへ航行する場合、マラッカ海峡からスエズ運河を経由する航路に比べ約40%航海距離が短縮します。北極海航路が実現化すれば海上交通にとって喜ばしいことではありますが、地球規模で見れば温暖化が原因ですので、喜ばしいことであるとは言えません。
 
3.地球温暖化防止に向けた国際的な取り組み
1)気候変動枠組み条約
地球温暖化を防止するためには大気中の温室効果ガス濃度を安定化させる必要があります。気候変動枠組み条約は、この大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを究極の目的とし、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において採択されました。
この条約において締約国会議を設置することが定められており、条約の最高機関として、定期的に締約国の義務、制度的な措置について検討することになっています。また、締約国の共通だが差異のある責任、開発途上締約国等の国別事情の勘案、速やかかつ有効な予防措置の実施などの原則のもと、主に先進締約国に対し温室効果ガス削減のための政策の実施等の義務が課せられています。
2)京都議定書
気候変動枠組み条約の目的や原則を踏まえ、1997年に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)において、法的拘束力のある温室効果ガス排出量の削減目標や達成期限などが定められた京都議定書が採択されました。2001年に米国が京都議定書から離脱しましたが、2004年にロシアが批准したことにより、2005年に同議定書は発効しました。
この議定書では、気候変動枠組み条約の「共通だが差異ある責任」の原則に従い、途上国は温室効果ガスの排出削減義務がなく、主に先進国に対して2008年から2012年までの5年間における温室効果ガスの排出削減量を各国に定め、先進国全体で1990年比5%以上削減することを定めています。また、国内の削減努力のみで目標を達成することが困難な場合には、排出量取引などの経済的メカニズム(京都メカニズム)を利用して温室効果ガスの排出を相殺することができます。
尚、京都議定書において航空機用及び船舶用の燃料から生じる温室効果ガスの排出は、国際民間航空機関(ICAO)及び国際海事機関(IMO)を通じて活動することにより、排出の抑制又は削減を追及することになっており、国際航空及び国際海運に削減義務はありません。
 
4.国際海運
1)輸送モードごとのCO2排出原単位
国際貿易のほとんどを海運が担っています。船舶は造船技術の発展と船型の大型化によって輸送効率を継続的に改善してきた結果、他の輸送モードよりもトン・マイル当たりのCO2排出量が少なく、環境に優しい輸送モードです。
 
輸送モード別CO2排出原単位
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)
 
2)国際海運からのCO2排出量および削減手法の検討
船舶は化石燃料を燃料油として使用しているため、温室効果ガスであるCO2を排出しています。2007年における国際海運からのCO2排出量は約8億7000万トンと推定されており、世界全体のCO2排出量の約2.7%に相当します。これは、ドイツ1国が排出した量とほぼ同じです。今後、国際海運から排出されるCO2の削減対策を何も実施しなかった場合、世界経済が成長を続けることによる国際海運の需要の増加によって、CO2排出量は2050年までには2007年比約2倍から3倍に増加すると予測されています。
現在のところ国際海運に削減義務はありませんが、今後CO2排出量の増加が予測されている国際海運が地球温暖化防止に貢献するためにも、排出削減は大きな課題となっています。現在、IMOの海洋環境保護委員会(MEPC)において国際海運から排出されるCO2を削減するために、船の設計変更や省エネ機器を搭載することによって効率の優れた新造船を導入していく「技術的手法」、燃料消費削減のため最適な運航方法をとるように促す「運航的手法」、排出量取引や燃料油への課金など市場原理を活用する「経済的手法」について論議されています。
(出典:IEA「KEY WORLD ENERGY STATISCS」2009を基に作成)
産業別 世界のCO2排出量
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)

(出典:環境省「日本の気候変動とその影響」)
国際海運のCO2排出量予測
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)
3)CO2削減への取り組み
(1)減速航行
舶用燃料油を1トン燃焼させると約3トンのCO2が発生します。また、船舶の機関出力は航行速度の3乗に,燃料消費量は航行速度の2乗に比例します。よって、船の速力を低下させると低下した速力以上に燃料消費量が減少しますので、減速航行を実施することは省エネ効果があると共にCO2排出量を削減することができます。
(2)プロペラ効率の改善
プロペラの回転によって海水が後方に押し出されることにより推進力が発生しますが、旋回流も発生しますので、一部の推進エネルギーが失われます。この失われるエネルギーを回収し、推進効率を向上させることによって燃料消費量を削減するために、2重反転プロペラやPBCF(プロペラ・ボス・キャップ・フィンズ)などが開発されています。
(3)船体抵抗の低減
船が海上を航行する場合、造波抵抗や摩擦抵抗などの影響により船舶の速力に応じて推進エネルギーは失われ、燃費効率は悪化します。
これらの抵抗を低減するために、低摩擦型船底塗料の採用や船首形状の改良などが行われています。
更に、水より抵抗の少ない空気の泡を船底へ送り込む空気潤滑システムが開発され、現在実証実験が行われています。
(出典:日本郵船(株)ホームページより)
(4)太陽光パネル・陸上電源供給装置
通常、船舶に必要な電力は主に化石燃料を使用するディーゼル発電機によって賄われています。この電力の一部を太陽光パネルによる発電によって賄う自動車運搬船が就航しています。太陽光という自然エネルギーを利用することによって、ディーゼル発電機で消費する燃料油を削減することができます。
太陽光パネル搭載自動車運搬船
(提供:日本郵船(株))
また、米国カリフォルニア州の一部の港においては、コンテナ船が停泊中に陸上から電力の供給を受けるシステムが導入されています。陸上から船舶に必要な電力を供給することにより、船舶のディーゼル発電機を停止することができ、停泊中に排出するCO2を削減することができます。
 
電源ケーブル
(提供:日本郵船(株))
電源プラグの接続(陸側)
(提供:日本郵船(株))
 
post by 海洋会事務局