トップページ » 船員・海事に関する調査研究 » 海事問題調査委員会中間報告②(H22.8)

船員・海事に関する調査研究

海事問題調査委員会中間報告②(H22.8)

2012年05月08日(火)
→PDF版はこちら
  海洋会の常設委員会である海事問題調査委員会は、「安全と環境」をテーマとして取り上げております。
「環境」に関連する船舶から排出される物質としては、温室効果ガスである二酸化炭素(CO2)、大気汚染物質である窒素酸化物(NOx)や硫黄酸化物(SOx)、更に、水生生物の越境が問題となっているバラスト水などがあります。最近、これらの排出物については世界的に注目されており、規制の導入などにより船舶からの排出削減が強化されつつあります。
 今回は、この4項目について紹介すると共に、温室効果ガス排出削減の新技術である「電池推進船」に関して報告します。 海洋会の常設委員会である海事問題調査委員会は、「安全と環境」をテーマとしてとりあげております。
 今回は、そのⅡとして「環境」に関連する船舶から排出される物質(温室効果ガス(CO2)、バラスト水、 NOx・SOx)に加えて、温室効果ガス排出削減の新技術である「電池推進船」について報告します。
 その第一回目として「1.温室効果ガス(CO2)」について報告します。

I
.温室効果ガス(CO2
1.地球温暖化の原因
現在、地球温暖化問題が世界的に注目されています。この地球温暖化は人間の活動により排出される二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス排出量の増加が原因の一つであると考えられています。
地球の気温は、太陽光によって暖められた地表面から熱(赤外線)が放射され、大気中にある温室効果ガスがその熱を吸収し再放射することによって生物が生息するのに適した温度を保っています。しかしながら、産業革命以降、石炭や石油などの化石燃料の大量消費によってCO2排出量が増加し、また、森林の伐採などによりCO2の吸収源が減少した結果、大気中の温室効果ガス濃度が上昇しました。大気中の温室効果ガスの濃度が上昇すると地表面から放射される熱の吸収量が多くなり気温が上昇します。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、1906年から2005年までの100年間で世界の平均気温は0.74℃上昇しました。また、1956年から2005年までの50年間の温度上昇傾向は10年間に0.13℃であり、過去100年間(1906年~2005年)の傾向の約2倍に相当します。今後、21世紀末までに、世界の平均気温は1.8℃から4.0℃上昇し、世界の平均海面水位は0.18mから0.59m上昇すると予測されています。
(出典:IPCC「Climate Change 2007:Synthesis Report」)
 
2.地球温暖化の影響
地球温暖化によって生じる影響は多岐に渡ります。生態系への影響としては、動植物の生息地の移動や減少などが挙げられます。また、今後地球温暖化が進むにつれ異常気象の頻度や強度が増し、世界各地で水不足や農作物の収穫量の減少、海面上昇による海岸侵食などの被害、更には、健康への影響が懸念されています。
また、現在世界各地で地球温暖化の影響によって発生した可能性のある熱波、ハリケーン、干ばつ、海氷の減少などの災害が報告されています。
1)熱波
2003年夏、ヨーロッパでは熱波によって過去500年で最も暑い夏となり、多くのヨーロッパ諸国で、最高気温が更新されました。その強烈な熱波で、穀物は枯れ、川は干上がり、森林では火災が発生し、約5200人が死亡するなどの大きな災害となったことが報告されました。また、2007年の夏においてもヨーロッパにおいて同じような熱波が発生しました。
2)ハリケーン
2005年8月に米国南部を襲ったハリケーン・カトリーナは、暴風や高波・高潮などの災害をもたらし、被害地域の経済活動が一時的に停止するなど、米国に大きな被害をもたらしました。
3)干ばつ
オーストラリアにおいては、近年連続して発生した干ばつにより、農業生産は大きく減少しました。特に、2006年の干ばつは観測史上最悪とされ、生産量は前年比で約60%減少しました。
4)海氷の減少
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書によると、北極の平均気温は過去100年間で世界平均の気温上昇率の約2倍の速さで上昇し、海氷や積雪面積が減少したと報告しています。更に、北極海の晩夏における海氷が、21世紀後半までにほぼ完全に消滅すると予測されています。北極海の海氷が減少することにより、今後北極海航路が開通する可能性があります。北極海航路が開通した場合、日本からヨーロッパへ航行する場合、マラッカ海峡からスエズ運河を経由する航路に比べ約40%航海距離が短縮します。北極海航路が実現化すれば海上交通にとって喜ばしいことではありますが、地球規模で見れば温暖化が原因ですので、喜ばしいことであるとは言えません。
 
3.地球温暖化防止に向けた国際的な取り組み
1)気候変動枠組み条約
地球温暖化を防止するためには大気中の温室効果ガス濃度を安定化させる必要があります。気候変動枠組み条約は、この大気中の温室効果ガス濃度を安定化させることを究極の目的とし、1992年にリオデジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)において採択されました。
この条約において締約国会議を設置することが定められており、条約の最高機関として、定期的に締約国の義務、制度的な措置について検討することになっています。また、締約国の共通だが差異のある責任、開発途上締約国等の国別事情の勘案、速やかかつ有効な予防措置の実施などの原則のもと、主に先進締約国に対し温室効果ガス削減のための政策の実施等の義務が課せられています。
2)京都議定書
気候変動枠組み条約の目的や原則を踏まえ、1997年に京都で開催された第3回締約国会議(COP3)において、法的拘束力のある温室効果ガス排出量の削減目標や達成期限などが定められた京都議定書が採択されました。2001年に米国が京都議定書から離脱しましたが、2004年にロシアが批准したことにより、2005年に同議定書は発効しました。
この議定書では、気候変動枠組み条約の「共通だが差異ある責任」の原則に従い、途上国は温室効果ガスの排出削減義務がなく、主に先進国に対して2008年から2012年までの5年間における温室効果ガスの排出削減量を各国に定め、先進国全体で1990年比5%以上削減することを定めています。また、国内の削減努力のみで目標を達成することが困難な場合には、排出量取引などの経済的メカニズム(京都メカニズム)を利用して温室効果ガスの排出を相殺することができます。
尚、京都議定書において航空機用及び船舶用の燃料から生じる温室効果ガスの排出は、国際民間航空機関(ICAO)及び国際海事機関(IMO)を通じて活動することにより、排出の抑制又は削減を追及することになっており、国際航空及び国際海運に削減義務はありません。
 
4.国際海運
1)輸送モードごとのCO2排出原単位
国際貿易のほとんどを海運が担っています。船舶は造船技術の発展と船型の大型化によって輸送効率を継続的に改善してきた結果、他の輸送モードよりもトン・マイル当たりのCO2排出量が少なく、環境に優しい輸送モードです。
 
輸送モード別CO2排出原単位
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)
 
2)国際海運からのCO2排出量および削減手法の検討
船舶は化石燃料を燃料油として使用しているため、温室効果ガスであるCO2を排出しています。2007年における国際海運からのCO2排出量は約8億7000万トンと推定されており、世界全体のCO2排出量の約2.7%に相当します。これは、ドイツ1国が排出した量とほぼ同じです。今後、国際海運から排出されるCO2の削減対策を何も実施しなかった場合、世界経済が成長を続けることによる国際海運の需要の増加によって、CO2排出量は2050年までには2007年比約2倍から3倍に増加すると予測されています。
現在のところ国際海運に削減義務はありませんが、今後CO2排出量の増加が予測されている国際海運が地球温暖化防止に貢献するためにも、排出削減は大きな課題となっています。現在、IMOの海洋環境保護委員会(MEPC)において国際海運から排出されるCO2を削減するために、船の設計変更や省エネ機器を搭載することによって効率の優れた新造船を導入していく「技術的手法」、燃料消費削減のため最適な運航方法をとるように促す「運航的手法」、排出量取引や燃料油への課金など市場原理を活用する「経済的手法」について論議されています。
(出典:IEA「KEY WORLD ENERGY STATISCS」2009を基に作成)
産業別 世界のCO2排出量
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)

(出典:環境省「日本の気候変動とその影響」)
国際海運のCO2排出量予測
(出典:IMO「Second IMO GHG Study 2009」)
3)CO2削減への取り組み
(1)減速航行
舶用燃料油を1トン燃焼させると約3トンのCO2が発生します。また、船舶の機関出力は航行速度の3乗に,燃料消費量は航行速度の2乗に比例します。よって、船の速力を低下させると低下した速力以上に燃料消費量が減少しますので、減速航行を実施することは省エネ効果があると共にCO2排出量を削減することができます。
(2)プロペラ効率の改善
プロペラの回転によって海水が後方に押し出されることにより推進力が発生しますが、旋回流も発生しますので、一部の推進エネルギーが失われます。この失われるエネルギーを回収し、推進効率を向上させることによって燃料消費量を削減するために、2重反転プロペラやPBCF(プロペラ・ボス・キャップ・フィンズ)などが開発されています。
(3)船体抵抗の低減
船が海上を航行する場合、造波抵抗や摩擦抵抗などの影響により船舶の速力に応じて推進エネルギーは失われ、燃費効率は悪化します。
これらの抵抗を低減するために、低摩擦型船底塗料の採用や船首形状の改良などが行われています。
更に、水より抵抗の少ない空気の泡を船底へ送り込む空気潤滑システムが開発され、現在実証実験が行われています。
(出典:日本郵船(株)ホームページより)
(4)太陽光パネル・陸上電源供給装置
通常、船舶に必要な電力は主に化石燃料を使用するディーゼル発電機によって賄われています。この電力の一部を太陽光パネルによる発電によって賄う自動車運搬船が就航しています。太陽光という自然エネルギーを利用することによって、ディーゼル発電機で消費する燃料油を削減することができます。
太陽光パネル搭載自動車運搬船
(提供:日本郵船(株))
また、米国カリフォルニア州の一部の港においては、コンテナ船が停泊中に陸上から電力の供給を受けるシステムが導入されています。陸上から船舶に必要な電力を供給することにより、船舶のディーゼル発電機を停止することができ、停泊中に排出するCO2を削減することができます。
 
電源ケーブル
(提供:日本郵船(株))
電源プラグの接続(陸側)
(提供:日本郵船(株))
 
| post by 海洋会事務局